100年後も続く
観光と自治に向けた
包摂的な共創

村上 裕希

一般社団法人Local Coop 龍郷 理事
一般社団法人E'more秋名 代表理事
一般財団法人かごしま島嶼ファンド 副代表理事

Field|龍郷町(奄美大島)

#リジェネラティブ #環境文化 #生物多様性

ネイチャーポジティブ宣言が示す意思と地域づくり

奄美大島にある龍郷町は県内でも稀な人口増地域ですが、その内実は二極化が顕著です。観光地側では宿泊施設の急増による景観の変化や地価高騰、過疎地側では担い手が減り、集落運営や文化の衰退、耕作放棄地の拡大が進んでいます。奄美文化と密接な稲作と広大な田園が残る秋名地区ですら、その農地の8割が放棄地となり、稲作は5%にとどまり、このままでは生物多様性・文化・伝統景観も失われかねません。世界自然遺産・奄美大島に位置する本町は県内初のネイチャーポジティブ宣言を掲げました。そして、流域再生と再生型観光による資金循環、関係人口の力で人と自然を結び直し、奄美で受け継がれてきた環境文化の保全と再生に取り組む「一般社団法人Local Coop 龍郷」が令和7年7月に立ち上がりました。

多様な当事者で織りなす包摂的な共創環境づくり

Local Coopには、ここに暮らす人たちの主体性はもちろんのこと、ここに暮らさない人たちも当事者となり関わり合う共助と共創の実現が不可欠です。これまでの自治は、そこに暮らすか否かが重要要件でありましたが、加速度的に人口減少と過疎が進行する現代においては、地域内外の多様な関係者から当事者を生み出していく、包摂的な共創環境づくりが欠かせません。これは、日本全体においても共通する重要な視点と感じています。生まれや国籍、暮らす場所や生き方が違ったとしても、地域のビジョンを共有しながら、その地の暮らしと人々と環境に敬意を持って関わる人たちを包摂的に取り込む環境づくりに向けた、公正な移行が私たちに求められていると感じています。

包摂的な共創に向けた地域との下地

Local Coopは、気候変動や人口減少社会を生き残るために、自然・文化両面に密接な流域再生事業に取り組みます。立ち上げ地域となる秋名地区では、ビジョンマップづくりや流域再生ワークショップなど、具体的な”場”を通して、住民と共に視覚的に体感し、理解を深め合う機会づくりに努めています。薩摩会議でも、議論だけではなく、地域住民と参加者が八月踊りでシンクロした交流を通して、互いに理解を高め合う機会となりました。これは身体性が如何に重要かを表す証左であり、今後においても、多様な関わり合いを受け入れながらも、住民自身が地域の営みや自然資源を見つめ直し、地域が意欲的に携われる共助へと、丁寧に繋げていきたいと考えています。

自然と関わりたくなる、誰もが参画できる地域づくり

人口減少が進み、一人一人の価値観も役割も多様化している中で、地域の自治に携わることは、”義務感”ではなく、関わりたいと思える、誰もが関わりたいと言える対象に変革させていくことが重要だと捉えています。再生型観光を掲げる私たちは、訪れる人々に観光として楽しみをもたらすだけではなく、暮らす人々にも地域の光を見る楽しみとなり、ウェルビーイングの向上にも寄与して欲しいと考えています。奄美では「ユリムン」という海に流れ着くものを海からの授かり物と考える言葉があります。人が来れば来るほど暮らしも自然も豊かになる、まさにそんな世界を目指して、再生型観光を通して、気候変動と人口減少社会を生き抜く新しい自治へと繋げていきたいと考えています。

人間であり、生き物としての知恵や力を取り戻す場所

東日本大震災の際に強く感じた自身に対する生き物としての無力さの一方で、奄美の暮らしにある逞しさに憧れを持ち、そして、島に暮らしながら、奄美の社会性に、高齢化社会での可能性を見出しました。今の日本では、生き物として生きる力や感覚、そして人間としての社会性の喪失が、様々な社会課題の遠因ともなっているのではないかとも思います。Local Coopの事業を通して、地域に住む人々は暮らしの豊かさを感じ、関わる人たちが、明治以降の急激な近代化や人口増によって失われてしまった、人間であり、生き物としての知恵や力を取り戻す場所として再生し、150年後の世界にも遺していくことが、私たちの子孫が地球に暮らし続けられることに繋がるのではないかと考えています。