水は山から海へ、
文化は流域をめぐる

今村 祐樹

Sumu Yakushima 流域コンセプトディレクター
合同会社MOSSGUIDECLUB 代表

Field|屋久島

#流域を生きる #コモンズ #流れを継承する

なぜ、いま「流域文化」に向き合っているのか

高度経済成長期の国有林事業により原生林の多くが失われた屋久島は、1993年に世界自然遺産に登録され、2023年に30周年を迎えました。弊社はその10周年にあたる2003年、エコツアー事業者として創業しました。創業初期、山間部へのオーバーツーリズムを経験したことから、山に偏った関わり方を見直し、2006年に里の滞在拠点「moss ocean house」を開設。2014年の長男誕生を機に暮らしへの関心を深めるなかで、山・里・海が一体だった島の営みを表す「山10日 海10日 里10日」という言葉と再会しました。かつて「山30日」のような事業で山を酷使した反省を踏まえ、現在は流域プログラムを通じ、山・里・海にバランスよく関わりながら、屋久島に受け継がれてきた「流域文化」を現代的に解釈し、次世代へ継承していくことを目指しています。

多様な動きを束ねる“言葉”と“かたち”が足りない

創業当初から続くモスガイドクラブのツアープログラム事業(現在は山から海までを網羅する流域プログラム事業)を軸に、moss ocean houseでの宿泊・飲食事業、さらに流域内の施設管理運営(SUMU)、流域全体のディレクション、山や道路、畑の整備など、流域に関わる仕事は年々広がっています。加えて、流域内事業者と協働するプラットフォームづくりなど、まだ直接的な収益にはつながらない取り組みも増え続けています。
こうした多様な活動を「流域文化の継承と未来への橋渡し」という一本の軸で束ねていくためには、ブランドや見せ方の整理整頓が喫緊の課題です。そのために、外の視点を持ち、意味や文脈を編み直す編集者の存在を必要としています。ともに考え、編み直す人と出会いたいと願っています。

「山から海までをつなぐ『流域文化』の再編集と実装」

私たちは「山10日海10日里10日」と表現される山から海までをひとつのコミュニティの単位ととらえる流域文化を現代的に再編集し、継承する流域プロジェクトに2022年から取り組んでいます。里山の杉人工林の再生や水源整備、耕作放棄地の生物多様性回復、海岸湧水を活用した塩づくりなど、山から海までをつなぐ流域再生が地域の方の協力とともに形になってきました。さらに2018年から続けてきた「人が来れば来るほど自然が再生する」流域プログラムを基に、リジェネラティブな滞在拠点「SUMU Yakushima」を整備。2022年以降の運用実験を経て、この春から流域文化を育む宿泊拠点として本格稼働を予定しています

「流域をコモンズとして学び、実践し、継承する」

屋久島に「流域をコモンズと捉える文化」を学び、実践し、次世代へと手渡していく場をつくりたいと考えています。山から海へと水が流れる縦軸のつながりの中で、森・里・川・海を分断せずに捉える流域の視点は、本来の土地との関係性を取り戻すための重要な手がかりです。この場には、デザイナーや編集者、アーティスト、文化人類学などの研究者などの他、地域づくりや都市計画、建築、ランドスケープやエンジニアリングについてまなぶ若者や実践者が集い、資格や正解を学ぶのではなく、滞在し、手を動かし、対話と編集を通して土地と関係を結び直します。ここで育まれた経験が、それぞれの土地へと持ち帰られ、各地の流域へと翻訳・継承されていくこと。それが目指すインパクトです。

世界に”名乗り”を取り戻す

「150年後に何を遺すのか?」この問いに対して僕は、形あるモノや制度だけでなく、世界の捉え方そのものを遺したいと考えています。マオリの文化では、人は名乗るとき、自分の名前だけでなく、山や川、海、先祖との関係を語ります。それは「私は誰か」という問いに、「私はどこから来て、何とつながって生きているのか」で応える世界観です。
流域をコモンズとして学び、実践し、継承する屋久島の場は、その感覚を身体で思い出すための土台となります。森・里・川・海のめぐりの中で生きる経験を通して、人が再び土地や生命との関係を名乗れるようになる未来へ。私たちは土地を所有する者でも管理する者でもなく、流域というコモンズを預かり、次の世代へ手渡す一員として、この名乗りを島を訪れる方と共に問い続けながら今、この刻を生きていきます。